関数のテイラー展開の有用性について異論を持つ人は滅多にいない、と思う。そして学習
の初期にお目にかかるその形は、
\begin{align}
f(x)
= f(u)
+ f^\prime(u)\,(x-u)
+ \frac{f^{(2)}(u)}{2 !}{(x-u)}^2
+ \frac{f^{(3)}(u)}{3 !}{(x-u)}^3
+ \cdots
\end{align}
であることが多いと思う。その上で $u = 0$ としてマクローリン展開が出てくる、というのが筋であろ
うか。少なくともわたくしの記憶では、そのような段取りであった。
さてそこで。一度きちんと学習しておくということをもちろんの前提として(勉強するにはいろんな本があ
ると思うけれど、わたくしは田崎さんのこの本(?)http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/mathbook/index.html をお勧めしたい。とてもためになります。そして、読んでいて楽しい)、
実践的な運用においては、
\begin{align}
f(u + \varDelta u)
= f(u)
+ f^\prime(u)\varDelta{u}
+ \frac{f^{(2)}(u)}{2 !}{(\varDelta{u})}^2
+ \frac{f^{(3)}(u)}{3 !}{(\varDelta{u})}^3
+ \cdots
\end{align}
という形を記憶しておくのが有用であるのではと考えている。この式から諸々がおまけ付きで導き出せるし、
何よりずらした量 $\varDelta{u}$ で冪乗の部分が構成される点がわたくし的には覚えやすい(もちろん人それぞれではあるけれど)。
例えば $x := u + \varDelta{u} \quad (\text{i.e.}\; \varDelta{u} = x - u)$ とすると
\begin{align}
f(x)
= f(u)
+ f^\prime(u)\,(x-u)
+ \frac{f^{(2)}(u)}{2 !}{(x-u)}^2
+ \frac{f^{(3)}(u)}{3 !}{(x-u)}^3
+ \cdots
\end{align}
というように、はじめに述べた $u$ の周りのテイラー展開の基本形が得られるし、これに対して $u = 0$
とすれば、マクローリン展開
\begin{align*}
f(x)
= f(0)
+ f^\prime(0)\,x
+ \frac{f^{(2)}(0)}{2 !}x^2
+ \frac{f^{(3)}(0)}{3 !}x^3
+ \cdots
\end{align*}
が出てくる。
さて。(2)に戻り、2次以上の項をまとめると
\begin{align*}
f(u + \varDelta u) =
f(u) + f^\prime(u)\varDelta{u} + O\left((\varDelta{u})^2\right)
\end{align*}
とあらわすことができて、2次以上の項をネグれば
\begin{align*}
f(u + \varDelta u) \simeq f(u) + f^\prime(u)\varDelta{u}
&\quad\iff\quad f(u + \varDelta u) - f(u) \simeq f^\prime(u)\varDelta{u} \\
&\quad\iff\quad \frac{f(u + \varDelta u) - f(u)}{\varDelta{u}} \simeq f^\prime(u)
\end{align*}
となる。2次以上の項をネグルということを「微分である」と捉える(物理屋が、いつもなんの躊躇もなく
2次以上の項を無視する、という論を立てるのはこれが理由なのだろうとふと思った)。
すなわち、$\varDelta \mapsto d$ とすれば $(\simeq) \mapsto (=)$ となって
\begin{align*}
f(u + du) = f(u) + f^\prime(u)\,du
&\quad\iff\quad f(u + du) - f(u) = f^\prime(u)\,du \\
&\quad\iff\quad \frac{f(u + du) - f(u)}{du} = f^\prime(u)
\end{align*}
となる。導関数そのもの定義式が、おまけとして、出てくる。
さらに(3)においても2次以上の項をネグレば
\begin{align*}
\frac{f(x) - f(u)}{x-u} \simeq f^\prime(u)
\end{align*}
となる。この形式で2次以上の項をネグルということを「$\lim_{x \to u}$」と捉えると、微分係数の定義
が得られる:
\begin{align*}
\frac{f(x) - f(u)}{x-u} \simeq f^\prime(u)
\quad\Longrightarrow\quad
\lim_{x \to u} \frac{f(x) - f(u)}{x-u} = f^\prime(u) = \left. \frac{df(x)}{dx} \right|_{x=u} \;.
\end{align*}
これもおまけといってよいと思う。
そもそもテイラー展開は、まず微分概念とそれに基づく導関数というものを土台にしたのちに、導出される
ものであった。しかしながら、上記の筋道はその逆で、テイラー展開の形式を先に認めて、そこから導関数
や微分係数を導くという道を辿っている。とはいえ、テイラー展開の形式においてすでに導関数を使ってい
るので、循環した論法になってしまっているところがご愛敬ではある。
としてもである。先に微分、導関数、テイラー展開というものの正当な道筋をきちんと学習したあとであれ
ば、「2次以上の項をネグル」ことにより、上記のような思考経済を適用しても、ま、いいのではないか、
とつらつら思う正月である。