$\dagger$ 和の計算
かつては \begin{align} & \sum_{k=0}^n k = 0 + 1 + 2 + \cdots + n = \frac{1}{2}n(n+1) \label{eq.1} \\ & \sum_{k=0}^n k^2 = 0^2 + 1^2 + 2^2 + \cdots + n^2 = \frac{1}{6}n(n+1)(n+2) \label{eq.2} \end{align} という関係式にいろいろとお世話になった.そしてつい最近 \begin{align} & \sum_{k=0}^n k^3 = 0^3 + 1^3 + 2^3 + \cdots + n^3 = \frac{1}{4}n^2(n+1)^2 \label{eq.3} \end{align} というような計算をした。\eqref{eq.1} や \eqref{eq.2} と同じころにこの関係式も学習していたのだろうけれど、全くおぼえていなかったので、一から計算する羽目になった。そしてこの結果を見て \begin{align} \sum_{k=0}^n k^3 = \left(\sum_{k=0}^n k\right)^2 \label{eq.4} \\ \end{align} となっていることに気が付いた。なるほどね。そしてこの関係をつかえば \begin{align} \sum_{k=m}^n k^3 = \sum_{k=0}^n k^3 - \sum_{k=0}^{m-1} k^3 = \left(\sum_{k=0}^n k\right)^2 - \left(\sum_{k=0}^{m-1} k\right)^2 \label{eq.5} \end{align} ということも導き出せる。あ、ちなみにここまでの $m, n, k$ は自然数なのですね($0$ も仲間に入れている)。
$\dagger$ 定積分においては
積分で似た様なことにならないのかと思って \begin{align*} \int_a^b x^3\,dx = \left[\frac{1}{4}x^4\right]_a^b = \frac{1}{4}(b^4 - a^4) \;, \quad \int_a^b x\,dx = \left[\frac{1}{2}x^2\right]_a^b = \frac{1}{2}(b^2 - a^2) \end{align*} と計算し、「$\int_a^b x^3\,dx$ は $\left(\int_a^b x\,dx \right)^2$ と等しくはないではないか、やはり自然数と実数の世界は違うんだ、やれやれ」と短絡してその時は終わってしまった。
しかしまあ、これは余りにも短絡が過ぎるというものである。任意の区間の定積分で比べれば確かにその通りであるけれど、それではそもそもの \eqref{eq.1} や \eqref{eq.2}、\eqref{eq.3} の $\sum$ の精神を汲んでいない。$\sum$ の時と同じ様に範囲を定めるべきなのだ。散歩のあと珈琲を飲んでいたらそのことに気がついた。なのでいまこれを書いているのである。
$\sum$ の範囲を汲んで、落ち着いてきちんとやってみると \begin{align} & \int_0^n x^3\,dx = \left[\frac{1}{4}x^4\right]_0^n = \frac{1}{4}n^4 \;, \quad \int_0^n x\,dx = \left[\frac{1}{2}x^2\right]_0^n = \frac{1}{2}n^2 \notag \\ & \qquad\therefore \int_0^n x^3\,dx = \left(\int_0^n x\,dx \right)^2 \label{eq.6} \end{align} というように、和のときの \eqref{eq.4} と似た様な結果が得られる。また $\int_0^n = \int_0^m + \int_m^n \Leftrightarrow \int_m^n = \int_0^n - \int_0^m$ を使えば \begin{align} \int_m^n x^3\,dx = \int_0^n x^3\,dx - \int_0^m x^3\,dx = \left(\int_0^n x\,dx \right)^2 - \left(\int_0^m x\,dx \right)^2 \end{align} となって、これまた和のときの \eqref{eq.5} と似た様な結果が得られるのである。短絡はいけない。ましてや「自然数と実数の違いだ」などと馬鹿げた大言を壮語してはいけないのである。
さらに計算結果の数値を比べてみると \begin{align*} \sum_{k=0}^n k \ge \int_0^n x\,dx \;, \quad \sum_{k=0}^n k^3 \ge \int_0^n x^3\,dx \end{align*} となっている。わたくし的にはこれは少々意外な事実であった。
$\dagger$ 他にはないのか?
$\sum_{k=0}^n k^3 = \left(\sum_{k=0}^n k\right)^2$ のようななんとはなしに美しい関係[1]は他にはないのだろうか。 それを、積分の形を利用して見ていってみる。求めたい関係は、$p, q, r$ を自然数として \begin{align*} \int_0^n x^p\,dx = \left(\int_0^n x^q\,dx\right)^r & \iff \frac{1}{p+1}n^{p+1} = \left(\frac{1}{q+1}n^{q+1}\right)^r \\ & \iff \frac{1}{p+1}n^{p+1} = \frac{1}{(q+1)^r}n^{(q+1)r} \\ \end{align*} となるから \begin{align*} \begin{cases} p + 1 = (q+1)^r \\ p + 1 = (q+1)\cdot r \end{cases} \iff \begin{cases} p + 1 = (q+1)^r \\ (q+1)^r = (q+1)\cdot r \end{cases} \end{align*} が満たされる $p, q, r$ でなくてはならない。条件 $(q+1)^r = (q+1)\cdot r$ を道具にして $p, q, r$ を探していこう。
$q=0$ から始めると \begin{align*} (q+1)^r = (q+1)\cdot r \iff 1^r = r \quad \therefore r = 1 \end{align*} でしかなく、そのとき $p=0$ である。元の積分の式にいれると \begin{align*} \int_0^n x^0\,dx = \left(\int_0^n x^0\,dx\right)^1 \iff \int_0^n \,dx = \int_0^n \,dx \end{align*} という当たり前の式になる。
$q=1$ を考えると \begin{align*} (q+1)^r = (q+1)\cdot r \iff 2^r = 2r \quad \therefore r = 1, 2 \end{align*} であるから、そのときの $p$ はそれぞれ $p=1, 3$ である。元の積分の式にいれると \begin{align} & \int_0^n x^1\,dx = \left(\int_0^n x^1\,dx\right)^1 \iff \int_0^n x\,dx = \int_0^n x\,dx \label{aho} \\ & \int_0^n x^3\,dx = \left(\int_0^n x^1\,dx\right)^2 \iff \int_0^n x^3\,dx = \left(\int_0^n x\,dx \right)^2 \label{boke} \end{align} であり、\eqref{aho} は当たり前で、\eqref{boke} は先に見た \eqref{eq.6} そのものである。
$q=2$ では \begin{align*} (q+1)^r = (q+1)\cdot r \iff 3^r = 3r \quad \therefore r = 1 \end{align*} であるから、そのとき $p=2$ である。元の積分の式にいれると \begin{align*} & \int_0^n x^2\,dx = \left(\int_0^n x^2\,dx\right)^1 \iff \int_0^n x^2\,dx = \int_0^n x^2\,dx \end{align*} とあたりまえである。$r=1$ は常にこのようになる。
$q=3$ とすると \begin{align*} (q+1)^r = (q+1)\cdot r \iff 4^r = 4r \end{align*} となって、このような $r$ は $1$ 以外には存在しない。そして $r=1$ の時は $p=q$ となるので、あたりまえの結果しか得られない(いままで見てきた様に)。
そして $q$ が $3$ 以上の自然数である場合には $(q+1)^r = (q+1)\cdot r$ を満たす $r$ は $1$ 以外には存在しないのである[2]。つまり、「なんとはなしに美しい関係」は、\eqref{eq.6}(\eqref{boke} と同じ)の他にはないことがわかるのであった。