\begin{align} \frac{d}{d\alpha} \int_\mathbb{R} f(\alpha, x)\, dx = \int_\mathbb{R} \frac{\partial}{\partial \alpha}f(\alpha, x)\,dx \label{eq.00} \end{align} という等式がある。「微分と積分の順序交換」とか「積分下の微分」などと呼ばれることが多い等式である。この等式をぐっと睨むと、左辺では微分、右辺では偏微分になっていることが見えてくる。そして左辺の微分は積分記号の前、右辺の偏微分は積分記号の後ろに書かれていることも見えてくる。
ただこの両辺の形には、すこし曖昧なところがある。微分記号や偏微分記号の対象範囲が明確とは言い難いのだ。そこをきちんと書いてみると \begin{align*} \frac{d}{d\alpha} \left\{\int_\mathbb{R} f(\alpha, x)\, dx\right\} = \int_\mathbb{R} \left\{\frac{\partial}{\partial \alpha}f(\alpha, x)\right\}\,dx \end{align*} ということになる。この $\{\cdots\}$ の括弧については、「数学に染まって」いくことによって「なくても自明」ということになるのだろうけれども、やはり微分や偏微分の作用する範囲は意識はしておきたいものであると思う。ちなみに、$\int_\mathbb{R}$ のように書かれた $\mathbb{R}$ は、$dx$ で積分する領域を示す($\int_a^b$ という形の方が馴染みではある)。
$\int_\mathbb{R} f(\alpha, x)\,dx$ という式は、積分変数が $dx$ の定積分であるから、積分結果には $x$ に依存するもの、例えば別の $x$ の関数などは出てこないはずである。けれども、$\alpha$ の値によっては結果が異なると予想されるし、それが一般的でもあるはずだ。このことは、この定積分が $\alpha$ の関数である、ということを物語っていると言えよう。このような $\alpha$ は、往々にして「パラメタ」と言われるが、いろいろな値をとれるのだから、変化する量すなわち変数であるともみなせる。いったん変数とみてしまえば、$F(\alpha) = \int_R f(\alpha, x)\,dx$ という $\alpha$ を変数とする関数 $F(\alpha)$ が考えられるようになる。こう考えることによって、微分することへの躊躇も減る。微分の定義に基づいて臆することなく普通に計算すれば \begin{align*} \dfrac{dF(\alpha)}{d\alpha} &= \lim_{h \to 0}\dfrac{F(\alpha + h) - F(\alpha)}{h} \\ &= \lim_{h \to 0}\dfrac{\displaystyle{\int_\mathbb{R} f(\alpha + h, x)\,dx - \int_\mathbb{R} f(\alpha, x)\,dx}}{h} \\ &= \lim_{h \to 0}\dfrac{\displaystyle{\int_\mathbb{R} \left\{f(\alpha + h, x) - f(\alpha, x) \right\}\,dx}}{h} \\ &= \lim_{h \to 0}\int_\mathbb{R} \dfrac{f(\alpha + h, x) - f(\alpha, x)}{h}\,dx \end{align*} となる。最後の結果で、極限操作と積分の順序が交換できれば、 \begin{align*} \lim_{h \to 0} \int_\mathbb{R} \dfrac{f(\alpha + h, x) - f(\alpha, x)}{h}\,dx \notag = \int_\mathbb{R} \lim_{h \to 0} \dfrac{f(\alpha + h, x) - f(\alpha, x)}{h}\,dx \end{align*} となる。そしてここで $\lim_{h \to 0} \frac{f(\alpha + h, x) - f(\alpha, x)}{h}$ は、$f$ を $\alpha$ と $x$ の2変数関数であるとみなせば、$\alpha$ による偏微分の定義そのものである。 さらにそもそも、$\frac{dF(\alpha)}{d\alpha} = \frac{d}{d\alpha}\int_\mathbb{R} f(\alpha, x)\,dx$ であったのだからまとめると \begin{align*} \dfrac{d}{d\alpha}\int_\mathbb{R}f(\alpha, x)\,dx = \int_\mathbb{R}\dfrac{\partial}{\partial \alpha}f(\alpha, x)\,dx \end{align*} と \eqref{eq.00} そのものになる。つまり極限操作と積分の順序が交換できるのであれば、微分と積分の順序も交換できることになる。そして、微分が偏微分に変化することも納得できる。
極限操作と積分の順序が交換できるのは、$x$ の関数 $f(\alpha, x)$ がパラメタ $\alpha$ について一様収束するときであると思っているのだがさてどうだろうか。インターネット上の黒木氏のコンテンツでは、「ルベーグの収束性定理から正当化される」とある (このページ)。わたくしはこの定理には疎い。一様収束との関係もわかっていない。そもそも「ルベーグ」という名前が出てくるだけで避けて通る不甲斐なさが、わたくしにはある。このルベーグの収束性定理と一様収束との関係については、今後の課題としておきたい。
その上で。引用した黒木氏のコンテンツには、厳密性に対する姿勢というか向き合い方について、非常に示唆に富むことが書かれている。こういう専門家のアドバイスには勇気づけられる。