微積の基本定理と記号操作と、問屋卸さず

$\dagger$ 微分の世界

微分を中心に世界をみると \begin{align} \frac{df(x)}{dx} = f^\prime(x) \label{e1} \end{align} といったような感じで $f^\prime(x)$ が $f(x)$ から導かれる。文字通り「導関数」である。この形では、2つの関数 $f(x)$ と $f^\prime(x)$ が微分演算で結びついていると捉えられる。

$\dagger$ 不定積分の世界

不定積分を中心に世界をみると、$C$ を任意の定数として \begin{align} \int f^\prime(x)\,dx = f(x) + C \label{e2} \end{align} といったような感じで $f(x)$ が $f^\prime(x)$ から導かれる。$C$ の任意性から、この積分については「不定」ということばが被せられている。そしてこの不定積分の結果が「原始関数」と呼ばれる。$f(x)$ は $C=0$ のときの原始関数である。この形では、2つの関数 $f(x)$ と $f^\prime(x)$ が積分演算で結びついていると見做せる。

$\dagger$ 世界の融合

\eqref{e1} と \eqref{e2} を融合する。この融合に際しては、微分演算は分配可能であり、かつ、定数の微分は $0$ であることを前提として丁寧に書けば \begin{align*} \frac{d}{dx}\left\{\int f^\prime(x)\,dx\right\} = \frac{d}{dx}\bigl(f(x) + C\bigr) = \frac{d}{dx}f(x) = f^\prime(x) \end{align*} であり、簡潔に書けば \begin{align*} \frac{d}{dx}\left\{\int f^\prime(x)\,dx\right\} = f^\prime(x) \end{align*} である。これは、微分の世界(導関数)と不定積分の世界(原始関数)が融合された結果であり、ときとして「微分積分学の基本定理」と仰々しく呼ばれることがある。

$\dagger$ 記号の操作から

さて、かつては教室で \begin{align*} \frac{df(x)}{dx} \; \text{は分数ではありません} \end{align*} となんども言われたけど、もう大人になったので \eqref{e1} から \begin{align*} df(x) = f^\prime(x)\,dx \end{align*} という変形ができることを認めてしまう。分数でないにしても、これくらいはいいだろう(と思う。きっとどこかでこの論法の正当性が保証されているに違いあるまい)。そして両辺に不定積分を施すと \begin{align*} \int df(x) = \int f^\prime(x)\,dx \end{align*} と書ける(これについても、厳密な正当性の保証がどこかでなされているに違いない)。ここに \eqref{e2} を適用すれば \begin{align} \int df(x) = f(x) + C \label{e3} \end{align} である。野次馬的にみると、$df(x)$ を積分すれば $f(x)$ つまり自分自身(+定数)になるのである。ほほう、しめしめ。

$\dagger$ 問屋は簡単には卸さない

多変数関数になると全微分と呼ばれる量を取り扱うようになるが、その量にたいして、今までの理路を演繹できるのでは、という邪念が走った。この邪念について、2変数関数の例でいくつか考えてみる。

$f(x, y) = x^2 + y^2$ のとき、全微分は \begin{align*} df(x, y) = \frac{\partial f}{\partial x}dx + \frac{\partial f}{\partial y}dy = 2xdx + 2ydy \;. \end{align*} よって、 \begin{align*} \int df(x, y) = \int(2xdx + 2ydy) = \int 2xdx + \int 2ydy = x^2 + y^2 + C \end{align*} と、全微分を不定積分すれば自分自身(+定数)になる。とはいえ、この積分に分配法則を無邪気に適用していいのか、というくらいの注意力は必要だろう。

さらには、$f(x, y) = xy$ となると \begin{align*} df(x, y) = ydx + xdy \end{align*} だから \begin{align*} \int df(x, y) = \int ydx + \int xdy = 2xy + C \end{align*} となって、積分の分配を認めたとしても、自分自身(+定数)にはならない。

したがって、最初の例は「たまたまそうなった」という結果オーライの例なのであろう。そもそも2変数関数の不定積分(原始関数)というものがはっきりしないのに、1変数関数の場合にしめしめと味をしめて、$\int df = f + C$ がいつでも成立する、などというホラは御法度であり、そうは問屋が卸さないのである(というか、問屋の前での門前払いか)。